はじめに:日本のZ世代とは誰か
Z世代とは一般的に1990年代後半〜2010年代初頭に生まれた世代を指し、2025年現在は10代後半〜20代後半にあたります。日本ではこの世代の人口は約1,800万人で、総人口の約14%を占めています。少子化の影響で人数は上の世代(ミレニアル世代約2,100万人、団塊ジュニア世代約2,000万人)より少ないものの、デジタルネイティブとして育った彼らの価値観や消費行動は、社会やビジネスに大きな影響を与えています。
日本のZ世代は「失われた30年」の中で育ちました。バブル経済の恩恵を知らず、デフレ・低成長が当たり前の環境で育ったこの世代は、上の世代とは異なる独自の価値観を形成しています。本記事では、データと調査結果をもとに、日本のZ世代の実像に迫ります。
Z世代の価値観
安定志向と堅実さ
日本のZ世代は、一般的なイメージに反して「安定志向」が強いことがデータから示されています。マイナビの調査(2024年)によると、新卒学生の企業選びの基準で最も多いのは「安定している会社」(約42%)であり、「やりがい」(約28%)や「高い給与」(約22%)を上回っています。
マイナビ「2025年卒大学生就職意識調査」:企業選びの基準1位は「安定している会社」(約42%)。
貯蓄意識も高く、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(2023年)によると、20代単身世帯の金融資産保有額の中央値は約100万円で、10年前と比較して増加傾向にあります。投資にも積極的で、新NISA(少額投資非課税制度)の20代の口座開設数は制度改正後に急増し、楽天証券では新規口座開設者の約35%が20代となっています。
多様性と個人主義
Z世代は多様性(ダイバーシティ)への感度が高い世代でもあります。電通の「Z世代調査」(2024年)によると、Z世代の約78%が「LGBTQの権利を支持する」と回答し、全世代平均の約55%を大きく上回っています。ジェンダーに関しても、「男は仕事、女は家庭」という固定的な性別役割分担に「反対」と答えたZ世代は約72%に達しました。
一方で、「社会を変えたい」というアクティビズム的な志向は、欧米のZ世代と比較すると控えめです。社会問題に関心はあっても、デモや署名活動よりも、消費行動(エシカル消費)やSNSでの発信を通じて意思表示する「静かなアクティビズム」が日本のZ世代の特徴と言えます。
コスパからタイパへ
Z世代の消費行動を特徴づけるキーワードが「タイパ」(タイムパフォーマンス)です。コスパ(コストパフォーマンス=費用対効果)に加えて、時間あたりの満足度を重視する傾向が顕著です。動画コンテンツの倍速視聴、映画のあらすじを3分でまとめたYouTube動画の視聴、書籍の要約サービスの利用など、「時間を節約して効率よく情報を得たい」という欲求が強く表れています。
クロス・マーケティングの調査(2024年)では、Z世代の約62%が「動画を倍速で視聴したことがある」と回答し、約45%が「映画やドラマを最後まで観ずにあらすじを調べる」と回答しています。こうした行動は上の世代から批判されることもありますが、Z世代にとっては限られた時間の中で多くのコンテンツに触れるための合理的な戦略です。
Z世代のSNS利用実態
プラットフォーム別の利用状況
Z世代にとってSNSは日常生活の基盤です。総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2023年)から、10〜20代のSNS利用率を見ると、LINE(約98%)、YouTube(約97%)、Instagram(約78%)、X〔旧Twitter〕(約67%)、TikTok(約62%)の順となっています。
特筆すべきはTikTokの浸透度です。2020年には約30%だった10〜20代の利用率が、2023年には約62%に急増しました。TikTokは単なる娯楽ツールにとどまらず、Z世代にとっては「検索エンジン」の代替としても機能しています。飲食店探し、ファッションのトレンドチェック、ニュースの入手、勉強法の検索など、Google検索よりもTikTokやInstagramで情報を探すZ世代が増えているのです。
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(2023年):10〜20代のTikTok利用率は約62%。2020年の約30%から倍増。
「映え」から「リアル」へ
かつてInstagramの代名詞だった「インスタ映え」は、Z世代の間ではやや時代遅れの感覚になっています。2024年のトレンドは、加工しすぎない「ありのままの投稿」や、日常の何気ない瞬間を切り取った「エモい」(感情に訴える)コンテンツです。BeRealのような、通知を受けてから2分以内に無加工の写真を投稿するアプリが一時的にブームになったのも、「リアル志向」の表れです。
複数のSNSアカウントを使い分けることも一般的で、X(旧Twitter)だけで「本垢」(メインアカウント)、「裏垢」(親しい友人向け)、「趣味垢」(推し活専用)を持つ人も珍しくありません。SHIBUYA109 lab.の調査では、Z世代の約45%が「3つ以上のSNSアカウントを使い分けている」と回答しています。
Z世代の消費行動
推し活消費
前述の推し活経済と直結しますが、Z世代の消費行動において「推し」の存在は極めて大きいです。SHIBUYA109 lab.の調査では、Z世代女性の約85%が「推しがいる」と回答し、推し活関連の月額支出は平均約1万円に達しています。推しのコラボ商品は発売即完売が常態化しており、企業のマーケティング戦略においてZ世代×推し活は最重要テーマのひとつです。
エシカル消費への関心
Z世代はサステナビリティへの関心が比較的高い世代です。消費者庁の調査(2024年)では、「商品購入時に環境への配慮を考慮する」と回答したZ世代は約38%で、全世代平均の約29%を上回っています。ただし、「環境に良いものは高くても買う」との回答は約18%にとどまり、「環境配慮は重要だが、価格とのバランスも大事」という現実的な姿勢が見られます。
古着市場の拡大もZ世代のエシカル消費を反映しています。セカンドストリートやBOOKOFF、メルカリなどのリユース市場は拡大を続けており、「古着はダサい」という感覚はZ世代にはほぼありません。むしろ「ヴィンテージ」「一点もの」としてのファッション価値が評価され、下北沢や高円寺の古着店はZ世代の聖地となっています。
体験消費の重視
「モノ」より「コト」(体験)を重視する傾向はZ世代において特に顕著です。JTBの調査では、Z世代の約65%が「モノよりも体験にお金を使いたい」と回答しています。ライブ・フェス、テーマパーク、旅行、食べ歩き、ワークショップなど、「体験してSNSでシェアする」一連の行動が消費の核になっています。
アフタヌーンティーブーム、サウナブーム、ソロキャンプブームなど、近年の消費トレンドの多くはZ世代とミレニアル世代が牽引しています。特に「推し×体験」の掛け合わせ(推しの聖地巡礼、コラボカフェ、アニメの世界観を再現したイマーシブ体験など)は、Z世代の消費行動を象徴するものです。
Z世代と仕事
キャリア観の変化
Z世代の仕事に対する考え方は、バブル世代や就職氷河期世代とは大きく異なります。デロイトトーマツの「Z世代・ミレニアル世代調査」(2024年)によると、日本のZ世代が仕事に求めるものの上位は「ワークライフバランス」(約68%)、「自分の成長」(約55%)、「社会への貢献」(約32%)であり、「高い給与」(約48%)よりもワークライフバランスが優先されています。
「出世したくない」という意識も特徴的です。マンパワーグループの調査では、Z世代の約45%が「管理職になりたくない」と回答しています。責任の増大、長時間労働、人間関係のストレスに対するネガティブなイメージが強く、「プレイヤーとして専門性を高めたい」というキャリア志向が見られます。
転職への抵抗感の低さ
Z世代は転職に対する心理的ハードルが低い世代でもあります。リクルートの調査では、入社3年以内に転職を経験した20代の割合は約30%に達し、「石の上にも三年」という従来の価値観は薄れつつあります。転職理由のトップは「キャリアアップ」であり、「逃げの転職」ではなく「攻めの転職」として捉える傾向があります。
Z世代が直面する課題
メンタルヘルスの問題
デジタルネイティブであるZ世代は、SNSの過度な利用や情報過多によるメンタルヘルスの問題に直面しています。厚生労働省の統計では、10〜20代の自殺率は2010年代以降上昇傾向にあり、特にSNS上での誹謗中傷やネットいじめが深刻な問題となっています。
一方で、Z世代はメンタルヘルスについてオープンに語ることへの抵抗感が低い世代でもあります。「メンヘラ」という言葉がカジュアルに使われ、カウンセリングやセラピーへの偏見も薄れています。オンラインカウンセリングサービス(cotree、Unlaceなど)の利用者の多くが20代であり、「心の健康にも投資する」という意識の高まりが見られます。
経済的格差と将来不安
Z世代の中にも経済的格差は存在します。親の経済力が教育や就職に大きく影響する構造は変わっておらず、非正規雇用の若者、奨学金返済に苦しむ若者は少なくありません。JASSO(日本学生支援機構)のデータでは、大学生の約49%が何らかの奨学金を利用しており、卒業時の平均借入額は約310万円です。
まとめ
- 日本のZ世代は約1,800万人。安定志向と堅実さが特徴で、新NISAの20代口座開設が急増。
- 「タイパ」重視の情報消費が特徴。倍速視聴、要約サービスの利用が一般化。
- TikTokの10〜20代利用率は約62%。検索エンジンの代替としても機能。
- 推し活消費、エシカル消費、体験消費がZ世代の消費三本柱。
- ワークライフバランスを最優先し、転職にも積極的。ただしメンタルヘルスや経済格差の課題もある。
よくある質問(FAQ)
Q. 日本のZ世代は政治に関心がないのですか?
「無関心」というよりも「既存の政治参加の形に馴染まない」と表現する方が正確です。投票率は依然として低い(20代の投票率は約36%、2024年衆院選)ものの、社会問題への関心自体は高く、気候変動、ジェンダー平等、動物福祉などについてSNSで意見を発信する若者は増えています。「投票に行く」だけが政治参加ではなく、消費行動やSNSでの情報拡散を通じた社会への関与がZ世代の特徴です。
Q. Z世代のファッショントレンドはどのように決まりますか?
従来は雑誌やテレビが流行を発信していましたが、Z世代のファッショントレンドはSNS(特にInstagramとTikTok)が起点となります。インフルエンサーの着用アイテム、TikTokの「#OOTD」(Outfit Of The Day)投稿、韓国ファッションの影響などが主なトレンドソースです。ZARAやSHEINなどのファストファッションで最新トレンドを取り入れつつ、古着やハイブランドのアイテムをミックスする「MIXスタイル」が主流となっています。
Q. 日本のZ世代は海外のZ世代とどう違いますか?
最大の違いは社会的アクティビズムへの温度感です。アメリカやヨーロッパのZ世代がBLM運動や気候ストライキに積極的に参加するのに対し、日本のZ世代はより控えめで、個人の消費行動やSNS上での発信を通じた「静かな意思表示」を好む傾向があります。また、安定志向が強い点も日本独特で、アメリカのZ世代が起業やフリーランスを志向する割合が高いのに対し、日本のZ世代は大企業への就職を志望する割合が高い傾向があります。

